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青春映画の枠を超えて―映画『HAPPYEND』が描く在日外国人の葛藤と政治的緊張 空音央監督作のトークセッションが開催【「第18回 アジア・フィルム・アワード」レポート】

空音央(Neo Sora)

空音央(Neo Sora)

Komugi Yamazaki
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3月16日(日)、アジア全域の映画を対象とした国際映画賞「第18回Asian Film Awards」(以下AFA18)が香港で開催される。授賞式に先立ち、3月14日(金)からはノミネート作品の試写会やトークイベントもおこなわれた。

Asian Film Awardsは、2007年にAsian Film Awards Academy(AFAA)により設立された。アジア映画の発展と国際的な認知度向上を目指し、アジア各国・地域の優れた映画作品やクリエイターを表彰することを目的としており、「アジア映画界のアカデミー賞」とも呼ばれている。

3月14日(金)、香港のPremiere Elementsにて日本映画『HAPPYEND』の上映会と、監督・空音央(Neo Sora)によるトークイベントが開催された。

『HAPPYEND』は、2024年10月4日に公開された日本・アメリカ合作の青春ドラマ映画。 本作が空音央にとって長編劇映画のデビューとなった。

【動画】映画『HAPPYEND』本予告編_空音央(『Ryuichi Sakamoto | Opus』) 長編劇映画デビュー作

本作の物語のあらすじ。幼なじみで親友のユウタとコウは、高校卒業を目前に控え、何気ない日々を楽しんで過ごしていた。ある夜、二人は学校に忍び込み、ユウタの思いつきで軽いいたずらを実行。しかし、その行動が思わぬ大騒動に発展し、学校にはAI監視システムが導入される事態に。この出来事をきっかけに、在日韓国人であるコウは、自身の将来やアイデンティティ、そして社会との関わりについて深く考え始める。やがて、今まで通り楽しいことだけをしていたいユウタとの間に、少しずつすれ違いが生まれていく。

本作は第81回ベネチア国際映画祭のオリゾンティ・コンペティション部門に正式出品され、国際的な注目を集めた。そして今回の「AFA18」では、最優秀新人監督賞と、ユウタ役の栗原颯人が最優秀ニューカマー賞の2部門でノミネートを果たしている。本作は日本では2024年10月4日に劇場公開され、観客や批評家から高い評価を受けている。

3月14日(金)、香港のPremiere Elementsにて開催された監督・空音央のトークセッション↓↓

限られたリソースで描く、大きなスケールと友情の物語

大きなスケールを描きたかったのですが、大きな予算はありませんでした。…というのは冗談ですが(笑)。この映画の核となるテーマは「友情」です。ただし、具体的には、政治的な違いによって友人を失ったときに感じるような感情を描いています。それは一見、とても小さなことのように思えますが、その背景にはより大きな理由、つまり社会的な要因があるのです。

私がこの作品で最も重視したことの一つは、このような小さな人間関係のやり取りを通して、物語のスケールの大きさを示唆することでした。冗談めかして言いましたが、私には大きな予算がありません。たとえば脚本の段階では、コウが本当にデモに参加する大規模なシーンを考えていました。しかし、そのようなシーンを実現するには、多くの時間やお金、リソースが必要になります。ですから、脚本を書いている際には常に、どこをどのようにカットすれば、より現実的で、効率的に物語のスケールを最大化できるかということについて、小さな工夫を重ねながら判断を下さなければなりませんでした。

そして最終的には、その判断が映画をより良いものにすることを願っていました。たとえばデモのシーンをカットする決断を下したときには、登場人物であるユウタの視点だけにフォーカスすることを選択しました。そのため、映画の中盤では、観客が翻訳を求めるような場面が生まれています。

異なる世界への気づきと物語の核心

私たちが抗議のシーンをカットする決断をしたとき、代わりにコウがその場を立ち去る姿を描くことにしました。そしてその後しばらくの間、私たちはユウタの視点だけに集中しました。それから、コウはユウタが知らない何かをしに行き、突然、コウはユウタにも、そして私たち観客にもアクセスできない世界を手に入れることになります。

こういったことは、「ああ、自分たちはもはや同じ世界にいるわけではないのかもしれない」という気づきをもたらします。それまでは同じ世界を共有していたはずなのに、いつの間にか違う世界に住んでいる。そういった気づきが、鬱の終わりにつながるのです。そして実際、それこそがこの映画の核をより強固なものにしています。

音楽を選ぶ自由と、AIが選ぶ時代のはざまで

音楽の背景については、これ以上詳しく語ることができないことがたくさんあります。そのうちの一つは、過去にもお話ししたことがあるのですが、DJという存在が、やや時代遅れになりつつあるということです。これからの時代は、今のように誰もがDJになる時代ではなくなります。私が本当は取り入れたかったのに、作品の中でそのスペースが取れなかったことのひとつは、「大多数の人々が音楽を聴く方法が変わってきている」という点です。つまり、AIがその人に合った音楽を生成し、提案するようになっているのです。

しかしDJたちは、自分自身で聴く音楽を選びたいと考えていますし、過去から現在までの音楽の中で、自分たちの心に本当に響くものを自分で発見したいとも思っています。これは、「自分で選ぶ」という行為と、「自分のために選ばれる」という状態との間の葛藤でもあるのです。

商業化に奪われるDIYスペースとテクノの原点

私が描こうとしたこの世界では、ますます多くのスペースが商業化されており、DIY的な、英語で「スクワッティング(不法占拠)」と呼ばれるようなショーを行うことが難しくなりつつあります。映画の冒頭では、警官がやって来て彼らからその場所を取り上げるのですが、それはその土地が私有地であり、彼らが不法侵入しているからです。

しかし、それは同時に、大企業が商業化のために可能な限り多くのスペースを手に入れようとする手段でもあります。私は、少なくともテクノの起源はそういった場所にあると考えています。こうした集団によって、こうしたスペースで、自分たちだけでショーを開催することができる――その精神の中に、私が伝えたかった何かがあるのです。

植民地主義が生んだ日本人と外国人の境界線

日本という国は、皆さんがご覧になっている多くのメディアを通じてどう伝わっているかは分かりませんが、この映画に登場するような意味において、実はすでにかなり多様性のある国です。ただ、それは私が東京に住んでいるという事情も関係しているかもしれません。

しかし同時に、私が本当に問いかけたいのは、「日本人のアイデンティティとは何か」ということです。これはおそらく、どの国においてもナショナル・アイデンティティに関する問題は存在し、非常に建設的な議論が求められる課題だと思います。近代的な意味におけるナショナル・アイデンティティは、通常、権力システムと深く結びついています。日本の場合、それは日本帝国主義と植民地主義の歴史的なシステムに縛られています。

では、なぜ日本にはこれほどまでに外国人嫌悪や人種差別が存在するのかと考えた結果、私は、日本が過去の植民地支配について反省し、それを断ち切ろうとしたことが原因である、という結論に至りました。ご存じの通り、日本はかつて東アジアや東南アジアのさまざまな国々を植民地として支配していました。その植民地には、満州、朝鮮、台湾などが含まれます。当時、これらの地域の人々は「天皇の臣民」とされ、ある意味では「日本人」と見なされていました。

しかし、第二次世界大戦で日本が敗戦した後、これらの地域にいた人々や、日本に移り住んでいた植民地出身者をどう扱うかという問題が生じました。その結果、天皇はGHQ(アメリカ占領軍)の提案に基づき、植民地出身者をすべて「外国人」、つまり「外国籍の者」と定義する法律を制定しました。これは、単に人口を管理する必要性によるものだけではなく、日本政府が旧植民地出身者に再び日本国籍を与えることを恐れていたからでもあります。その恐れが、「誰が外国人で、誰が日本人か」という人工的な境界を作り出し、それが今日まで続いているのです。

私は、このようなシステムが現在でも変わっていないことが、日本社会において人々が分断されている大きな原因であると考えています。こうした問題意識を持っていたからこそ、今回の作品にはそのような特徴が反映されました。

大地震と緊急事態令が示す日本の未来像

製作を始めたのは8年前なので、少し無責任に聞こえるかもしれませんが、当時は近い将来に大地震が来ると言われていた未来を想像していました。そして、この8年間で、それがますます現実的に、しかも深刻な問題であることが分かってきました。

とはいえ、意図的にそのようなテーマをトップに据えたわけではありません。特に、長編劇映画の初監督作品というものは、企画から完成までに時間がかかるものです。もちろん、この作品を寓話として読むことも可能だと思います。というのも、日本政府は、映画の中でも描かれている「緊急事態令」を導入するために憲法を改正しようとしており、今もその動きは続いています。そこで私は、「すでに憲法が改正され、政府がいつでも好きなときに緊急事態令を発動できる世界」を想像しました。

アメリカをはじめ、世界の多くの国々でも、緊急事態を口実に政権が強大な権力を握ることがいかに危険であるかを見れば、理解していただけると思います。ですので、この作品がすべて政治的な寓話だと言うつもりはありませんが、その側面は確かに存在しています。

観客への配慮から生まれた地震シーンと音楽演出の選択

脚本を書いている段階、つまり映画のシーンを構想する段階から持っていたアイデアもあれば、状況の変化やさまざまなアイデアに対応して生まれたものもあります。しかし、地震のシーンのサウンドデザインに関しては、ハッピーエンドの前に同じようなアイデアを取り入れた短編映画を撮った経験が基になっています。その短編で地震のシーンを試してみたのですが、実際には多くの日本人の方々からフィードバックをいただき、「地震のトラウマを思い出させられた」との声が多く寄せられました。

地震は、世界中の多くの人々が経験するトラウマとなり得る出来事です。そのため、最終的に地震の音やシーンを削除することに決めました。それは、観客を不安にさせたくなかったからです。同時に、もしそのまま残していたら、恐らく別の反応があっただろうとも思います。

あの音楽については、脚本を書いている時点で既にアイデアはあったのですが、作曲家と一緒に作業を始め、編集作業を進めていく中で、ようやく本当の意味で音楽が形になりました。本当に素晴らしい経験でした。誰と仕事をするのかが決まった後は、私から提案やリクエストを行い、すべてのコラボレーターたちから最高の成果を引き出すことを意識しました。

だからこそ、自分が何をしたいのか、そのバランスが非常に重要になります。そして、自分がどんな感情を得たいのか、何を結果として生み出したいのかを明確に理解していることが大切だと感じています。

平等と差異への気づきを促すデザインと観客の自由な解釈

この作品の構成は、「もしかしたら、私たちは同じ人間ではないのかもしれない」と初めて気づくきっかけを与えるものかもしれません。もしかすると、社会の扱いが異なるのかもしれない。冒頭のシーンで、警官が2人に対して異なる態度を取る場面において、彼はそのことに気づくべきだったのかもしれません。

しかし、若い頃は「自分たちは同じ人間だ」「同じように育った」と信じていますし、実際にいつも一緒にいて、同じ空間で過ごし、同じ友人がいて、同じ音楽を聴いている…そういう表面的な共通点にとらわれてしまいがちです。

けれども、そうした表層の一致にもかかわらず、社会の中で平等に扱われるとは限らないという現実には、なかなか気づけないものです。ですから、もちろん、それはそのように意図してデザインされたものなのですが、同時に、私としては「こうしか読み取れない」という固定的な解釈になってほしくはないとも思っています。

投票率の低さではなくデモにフォーカスした理由

私やコウ、そして他の仲間たちが、周囲の多くの人たちに投票を呼びかけ、懸命に努力しているという話をすることもできたのですが、一つだけ言っておきたいことがあります。それは、コウは在日韓国人であるため、日本において選挙権を持っていないということです。これは、先ほどお話しした「在日の人々における権力の問題」とも関係しています。そのため、私は日本の投票率を上げることには大賛成ですが、私個人の意見としては、「投票することが政治的関与や行動のすべてであるとは必ずしも思っていない」という立場です。

多くの場合、投票という行為は、政府や確立された政治システムが、人々の政治的情熱や関心を吸収するために設けた仕組みであり、政治的行動を許される非常に狭い枠組みの中で行われているものだと感じています。もっとも、特定の状況や、特定の国においては、選挙に参加することが非常に重要であり、積極的に実行されるべきだとも考えています。

ここで、直接行動と抗議行動を分けて考えることが大切だと思います。私は、直接行動や路上での抗議行動は、政治的行動を表現する手段として、より民主的な形態になり得ると考えています。また、「直接行動と抗議行動の違いは何か」についても深く考えるべきだと思います。プロテスト(抗議行動)は、映画の中にも少し描かれていますが、権力者に「正しい行動を取るように求める」ものであるのに対し、直接行動は「自らが直接、何かを実行する」ことを指します。個人的には、街頭での集会や公共の場での集会は、民主的な行動として最も重要で意義のあるものだと考えています。そして、投票をテーマにした映画は、実はそれほど面白いものにはならないかもしれませんね(笑)。

リンク

映画『HAPPYEND』公式サイト→ https://www.bitters.co.jp/HAPPYEND/

Asian Film Awards公式サイト→ https://www.afa-academy.com

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